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日記

akiraaniの日記: 久しぶりに電子書籍の話 7

日記 by akiraani

 日本の電子書籍は騒がれている割にはシェアはさほど拡大してはいない。米国では早ければ今年中にでも電子書籍の市場規模が紙の書籍のそれを上回ろうかという状況にあるが、日本では2015年でもまだ1~2割程度だといわれている。(参考)
 原因については様々で、縦書きやルビなんかの複雑なフォーマット、ガラパゴス化してしまっている携帯向けを中心としたコンテンツ配信体系、必要以上のDRMをかけようとするコンテンツホルダが多いという意見もよく見かける。

 ただ、個人的には根本的な原因は紙の書籍の方が便利だからだと思っている。今の形の電子書籍が普及するためには、大多数の人が(ココ重要!)紙の本よりも便利、すぐれていると感じる必要がある。
 海外での電子書籍のヒット要因を日本に当てはめてみると、日本がいかに電子書籍普及に向いていないかがわかる。

・いつでもどこでも買えて、品切れがない
 Kindleが大ヒットした一番大きな要因は、3G通信端末を備えていてどこからでも書籍が買えたという点だといわれている。これは、書店に足を運ばなくてもいいということよりも、書店では入手不能な書籍が買えたのが大きかったのではないかと思う。米国では書籍というのはほとんどが初回生産のみで、よほどの大ヒットでもない限り再販されることはない。このため、大半の書籍はそもそも店頭には置いていない。
 しかし、日本では取り次ぎ流通というシステムがあるため、話題の新刊は常に町の大型書店にある。もちろんそれでも品切れは発生するが、POS管理で売り上げが出版社に素早くフィードバックされてすぐに増刷される。
 知人の作家に聞いた話だが、本の発売日に増刷の連絡が来たことがあるそうだ。こんなことが可能なのは世界広しといえど日本くらいのものだろう。
 それから、ブックオフなどの大型新古書店の存在も大きい。少なくとも、都市圏では大量の中古書籍が流通しているので、書店にはあまりおかれなくなった少し古い本も、話題になったものはだいたい入手可能になっている。

・価格が安い
 米国では、紙の書籍と電子書籍では倍以上値段が違うのが普通。しかし、日本ではそうではない。原因は電子書籍が高いことではなくて、紙の書籍が安いことにある。
 Amazonの電子書籍は、当初は多くのタイトルが一律9.99ドルだった。1ドル80円で換算しても1冊800円程度。それでも紙の書籍に比べれば半額以下のものがほとんどだった。
 しかし、日本で800円の書籍というと、だいたい新書の小説本の価格。文庫やコミックスはほとんどのタイトルが800円もしない。もちろん国ごとにいろいろ事情があるだろうが、少なくとも米国と同じ感覚で電子書籍の価格設定をしていたら、日本では紙の書籍よりも高くなってしまうということだ。
 さらに、ある程度期間がたてば新古書店にも流通するようになる。最低定価の半値、それよりも昔の本になればほとんどが1冊100円という状況になる。電子書籍価格のアドバンテージがないどころか、米国と同じ感覚で商売していたら、電子書籍の方が高くなってしまう。

 この2点だけでも十分致命的だが、もう一つ厄介な問題がある。それは、日本の書籍は世界標準に比べると印刷品質が随分高いという問題だ。
 グローバル標準の電子書籍端末は想定している印刷品質が日本の標準よりも低い。このため、たくさん出ている電子書籍端末の品質が、総じて不十分なのだ。
 この例が顕著に表れているのが、電子ペーパーを使っている電子書籍端末の解像度だろう。KindleやSonyReaderなど今現在主流の電子書籍端末は、6インチディスプレイだと解像度はそのほとんどがSGVA(800×600)となっている。この解像度ではスクリーントーンや細かな書き文字の多いマンガの表示には少し足りないし、文芸書でも字の小さい本だとルビがつぶれてしまう。
 驚いたことに、これは2004年に発売されたリブリエと全く同じスペックなのだ。つまり、解像度に関しては十年近くもまったく進歩していないということになる。これは技術的に難しかったから実現できなかったのではなく、高解像度の需要そのものがなかったと考えるのが自然だろう。海外書籍の印刷物の品質なら、それで必要十分だったのでそもそも進化する必要がなかったのだ。
 このため、世界にあふれている電子書籍端末のほとんどは日本では使えず、日本で電子書籍を本格展開するためには、まず高品質化した日本版電子書籍リーダーを別に普及させる必要がある。コンテンツの価格アドバンテージで勝負できない状況では、これは不可能に近いと言っていいだろう。

 もちろん、場所をとらないといった電子書籍ならではのメリットはあるにはあるのだが、残念ながらそれらは大多数であるライトユーザーには大したメリットではない。
 これらの要因をまとめると、紙の書籍が便利だから電子書籍が普及しないんだ、ということになる。携帯向けコンテンツのようにまったく別物に加工して違う商品だと認識させでもしない限り、アーリーマジョリティ以降に浸透することはないと思う。

この議論は賞味期限が切れたので、アーカイブ化されています。 新たにコメントを付けることはできません。
  • Kindle だって、本の種類がたくさんあるというが、「入手できない本」だらけだ。B&Nで手に入る本は大抵あるくせに技術書が全然ない、とか…
    TCP/IP Illustrated の1巻とかがよい例だ。なんで1巻がなくて2巻だけあるかなっ(`´)

    しかしそれでも。
    新刊書はほぼ確実に Kindle 版が手に入る。
    日本で言う「新書」レベルの内容のものと、「ノベルス」(…結局新書サイズの本だな)に相当するものは確実だ。

    しかし、日本側のブックリーダーでこのコンテンツのカバー率に匹敵するものは何もない。

    もちろん、印刷技術の優劣などもあるだろうが、そんなのはそもそもコンテンツがあって初めて比較できることだ。
    コンテンツがある、と言う保証がない家電メーカーが端末を出してきても、そんなの、本読みには全然信頼できない。
    これが「紀伊国屋リーダー」とか「有隣堂ブック」とかならまだしも。

    .

    で、個人的には。

    この状態を打破できるのは、実は フランス書院じゃないかと思っている。「e2ノベルス」みたいなブランドで、自社ブランドのエロ小説を電子ブックで出版するのだ。
    エロ小説ほど、本屋においてキープされている率が低く、注文するのが恥ずかしいものはない。このようなジャンルでは、本屋対電子ブック的な衝突はほとんどなく、電子ブックの一方的勝利に終わる。

    --
    fjの教祖様
    • by Anonymous Coward

      >この状態を打破できるのは、実は フランス書院じゃないかと思っている。
      エロ同人誌に於いては既に普及期にあるとの意見も有りますしねエ。
      日本で伸びて来るとしたらDMMだったりして。

    • by Anonymous Coward

      フランス書院は結構前から自社サイトでXMDF形式の電子書籍売ってます。ただし、

      • 電子書籍の方が値段が高い
      • 新刊は紙の書籍から先に出る

        (電子化されるのは大体1年前後経ってから)

      という状況ですが。

  • by Anonymous Coward on 2011年09月01日 12時44分 (#2012785)

    ものっそい納得した。

  • by Anonymous Coward on 2011年09月01日 16時48分 (#2012972)

    納得。

    英語の技術書なんかは英語版の方がはるかに安いので,

    てっきりアメリカの方が本は安いと思ってました。

    なんせ当日に届くほどの配送網が(何千万人もの規模で)あるのは日本だけですしね。

    日本の流通は世界一だと思います。

    それはともかくまともな電子書籍リーダを早く開発して欲しいですね。

  • by Anonymous Coward on 2011年09月01日 16時51分 (#2012975)

    > もちろん、場所をとらないといった電子書籍ならではのメリットはあるにはあるのだが、
    > 残念ながらそれらは大多数であるライトユーザーには大したメリットではない。

    これはもう「今現在の蔵書を何とかしたい」需要なので、
    コンテンツ供給者による「商品としての電子書籍」への需要ではなく、
    純粋に「自炊」需要なんでしょうね。

    そう言えば、akiraaniさんは自炊ってしてるんですか?

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あと、僕は馬鹿なことをするのは嫌いですよ (わざとやるとき以外は)。-- Larry Wall

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