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Alan SternはなぜCeresに関する署名活動をしないのだろう?

日記 by yosuke

神は脳の一部を占有していないとかLockheed MartinがOrion(CEV)のプライム・コンストラクターにとかGRB060218とかSMART-1とかおもしろそうな話はあるんだが。

とりあえず、惑星の定義について考察してみる。

なぜ惑星の定義を決めようと言う話が持ち上がってきたのか。
これには、1990年代からの観測技術の飛躍的向上による、Trans-Neptune Objectsの発見、200個を超える系外惑星の発見、N体シミュレーションなどによる惑星系形成論に関する知見の蓄積などが関係する。
こんなことは、いまや至る所に書いてあるんだけれどもね。惑星形成論については該当ストーリーにもコメントしたし。
それでも、同じようなわかってないコメントが多く付く。何でだろう。って、別に疑問にも思ってないけど。

じゃあ、そもそもに戻ろう。
惑星とはなんだったのか。なぜ冥王星は惑星とされていたのか。

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有史以前
夜空で月の次に明るい金星を始めとして、全天でも最も明るい天体のグループに含まれ肉眼でも見える水星、火星、木星、土星の5天体は有史以前から知られていた。彼らは、これらを見てさぞ不思議に思ったことだろう。天球に張り付いているかのようにその配置を崩すことなく移動する他の星々とは異なり、これらの天体は前進したかと思うと後退するのだ。そこでギリシャ人は、これらの天体を「放浪者」πλανήτηςと呼んだのだ。まずここを出発点としよう。

地動説
さて、時代はずっと先へ進む。
16世紀に入り、Nicolaus Copernicusによる地動説の創始ともいうべき非常に大きな進展がある。さらに望遠鏡の発明による木星の衛星の発見が続き、17世紀初頭にはTycho Braheの膨大な観測記録を基にしたKeplerの法則が、後半にはNewtonの力学が出てくる。これらによって、宇宙の中心だと思われていた地球は、5惑星と同じ法則に基づいて太陽を周回する天体だということが決定的になる。つまり、惑星とは、地球を含む6天体となったのだ。

天王星
さらに、18世紀。
1781/3/13、William Herschelは偶然に天王星を発見する。「天王星」の命名者はJohann Bodeである。天王星は、まさにボーデの"法則"を満たす距離にあったのである。天王星が惑星でないはずもなく、これによってまた惑星は増え、太陽系の惑星は7となる。

小惑星と惑星の定義
天王星の発見によりボーデの法則を疑う理由はなくなる。天文学者は火星と木星の間、N=3の位置に惑星を探し求めることになる。
19世紀になった初日、1801/1/1。Giuseppe PiazziはN=3の距離にある天体を発見する。一度は見失うものの、この天体はすぐにHeinrich Olbersにより再発見される。この天体が惑星であることはPiazziにとって疑うべくもなく、Ceresと名付けられる。
しかし翌年、Olbersは同じような軌道にPallasを発見する。同種の天体の発見とその小ささ(水星の直径4,873kmに対して、Ceresは910km、Pallasは520km)から、Herschelは「CeresやPallasは惑星ではなくAsteroidと呼ぶべきもの」と主張する。さらに、1804年のJuno、1807年のVestaと発見は続く。この頃には、「これらの天体は元々あった惑星が破壊された破片」という認識が出てくる。
とはいうものの、Herschelの産まれたイギリスでも、これらの天体は惑星であるとされていた。このときは、水金地火木土天+4つの計11天体が惑星だったのだ。

ここから次のAstraeaの発見まで40年近くが空くものの、その後は数年で十数個の天体が見つかることになる。このころになると、Johann Franz Enckeはベルリン天文年鑑の中で、(5)Astraeaから(15)Eunomiaまで小惑星番号を付け始める。CeresからVestaまでも同様に扱うようになるまで、それほどの年数はない。
これには、ボーデの法則に従わない海王星の発見の影響もあるだろう。それに従っていることは、もう意味を持たないのだ。ここに至って、惑星の定義というものが変わることになる。小さいもの、同種の軌道をもつものは惑星として扱われなくなったのだ。
#このときの惑星の定義だって天文学者の議論から産まれてきているもの。まあ当たり前のことだけど。

海王星
天王星の発見は、もう一つの意味を持っていた。天王星の観測を続けるうちに、軌道が力学的に求められたものとずれていることがわかったのだ。これは、さらに外側に存在する惑星の重力によって起こされている摂動が原因と推定された。Urbain Le VerrierとJohn Adamsは木星、土星、天王星の観測から、未知の惑星の位置を計算した。Johann Gottfried Galleが1846年にその位置に海王星を発見する。
実は計算に誤りがあったとはいえ、予言された位置に見つかり、天王星に摂動を起こすだけの充分な質量をもち、似た軌道を通る他天体も見つからなかった海王星は、8番目の惑星とされた。

惑星X
観測を続けるうち海王星にも軌道のずれがある、とされた。これが、同じように海王星の外側に未知の惑星があるためと考えられたのも当然だろう。Percival Lowellはこの惑星を惑星Xと呼び、その位置を計算し、自らが作ったLowell天文台で観測を続けた。しかし、彼は惑星Xを見つけられないまま、1916年に死去することになる。

冥王星
その後、1930年にLowell天文台のClide TombaughがLowellの予言した位置に冥王星を発見する。あとから計算して確認したところ、Lowellの撮った写真にも2回ほど冥王星が写っていたことが判明している。しかし、1枚は暗すぎてよく見えず、もう1枚は乾板の傷の上にちょうど当たっていたのだ。
冥王星は、Lowellの探していた惑星Xとされた。軌道は歪んでいて海王星の内側にまで入るうえに傾いており、写真からはどうみても海王星に摂動を引き起こすような大きさはなかったが。なお、発見から1970年代までは、冥王星の質量は地球と同程度から1/10程度と見積もられていた(構成物質にとんでもないものを想定するわけにもいかないので)。この値は小惑星とされたCeres(メインベルト総質量の1/3を占有する)よりも2〜3桁大きい(それでも海王星の軌道は説明できない)。これで冥王星は9番目の惑星となった。なにせLowellが死ぬまで追い求めた惑星Xなのだから。そのニュースバリューは相当なものだったのではないだろうか。
#海王星の摂動の不足分を起こしているかもしれない外惑星の探査はこのあとも続けられた。Voyager2の天王星(1986)、海王星(1989)flybyによって、両惑星の質量が高精度で確定するまで。確定した質量を使うと、天王星、海王星に説明できない摂動はないことがわかっている。

冥王星の正体とその扱い
1978年、冥王星に衛星Charonが発見される。その直径は冥王星の1/2。衛星が見つかれば、力学を使って正確な質量を求めることができる。確定した冥王星の質量は、地球の0.2%。海王星と比べると0.01%である。その比重はたかだか2程度。やはり岩石と氷でできていて、重金属の塊などではなかったのである(それでもセレスよりは1桁大きいが)。

1990年代に入ると観測技術の向上によって、冥王星と同様の軌道をもつ小惑星が次々と見つかり始める。これらの天体は(冥王星も含め)、海王星と軌道周期が3:2の関係にある。海王星の強大な重力に捉えられ、軌道が共鳴しているのである。これら、海王星から見ると誤差のような小天体は、ここから抜け出すことができず、海王星が外側に移動した際にも金魚のフンのように引きずられていくしかなかったのだ。冥王星が、これらの天体の中の代表的存在に過ぎないことは明らかである。

それでも、冥王星は例外的に惑星として扱われ続けた。

1998年には、IAU Minor Planet Centerが、冥王星に切りのよい10000番の小惑星番号を付ける、という提案を行なう。この提案自体は冥王星は惑星のままに据え置く、というものであったが、この提案は却下される。1999/2/3、IAUは冥王星に関するプレス・リリースを出し、冥王星の扱いを変えないことを明言する。

2000年を超えると、冥王星の3/4程度の大きな天体がいくつも見つかってくる。そのたびに"第10惑星"という報道がなされた。2003年にはMike Brownによって、ついに冥王星よりも大きな2003 UB313が発見される。冥王星を例外的に扱うことは難しくなった。これらを背景に、「惑星の定義」というものが再びクローズアップされるようになったのだ。前回の結論先送りもあり、今回は、IAUは「ここで先送りするようなら存在意義が問われる」くらいの捉え方をしていたようだ。

惑星系形成論との関連
余白がないので省略。

系外惑星との関連
1995年にMichel Mayorが最初の系外惑星の発見を行なって以来、すでに200個を超える系外惑星が見つかり、系外惑星系すら発見されている。
もちろん、今回の決議は、太陽系に限るものである。しかし、同じ用語を使う以上、系外惑星と系内惑星の定義に齟齬があっていいはずもない。実際、IAUは当初は太陽系に限らず定義を決めるつもりだったはずだ。どんな天体があるのかよくわかっていないとか、連星系はどうするんだとかそのような理由で、決議案のa starがthe Sunに変更されたのは直前である。
そのような経緯で太陽系に限ったとはいえ、今後四半世紀のうちには系外惑星に関する知見がさらに蓄積されてくるだろう。TPFによる直接観測が始まれば、岩石型惑星発見だって(系外衛星発見だって)あり得る。そのときには、やはり系外惑星も含めてなんらかの定義を決める必要が出てくるだろう。そのときに、太陽系だけ特別扱いをしていいわけはない。今回の定義に軌道の離心率が入っていないのは、やはり既に大離心率の系外惑星が見つかっていることに関係するのだろう。齟齬を生みそうな定義は使えないのだ。

非科学用語としての「惑星」
科学者はラテン語でも使ってろ、というのでなければ、人口に膾炙した言葉は重要である。これだけ惑星、系外惑星という言葉が氾濫している以上、それ以外の言葉を使ったところで話が通じなくなるだけである。
そもそも、近代以降では惑星とは科学用語である。天王星や海王星や冥王星を写真以外で見たことがある人がどの程度いるというのだろう。
#classical planetっていうのなら、水金火木土でしょ。
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で、タイトル。
Ceresを惑星として扱う署名運動もしてない以上、彼らの態度は科学的ではない、と私は考える。確かに今回のIAUの定義は曖昧に見えるかもしれない。しかし、彼らの主張(A better definition is needed.)はそれ以上に曖昧であるというか恣意的であるというかごまかしである。

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typodupeerror

計算機科学者とは、壊れていないものを修理する人々のことである

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