軌道離脱 / ジョン・J・ナンス Orbit / John J Nance

長年の夢が叶い、平凡な会社員キップ・ドーソンは宇宙旅行に出発した。だが、宇宙船が軌道に乗ってまもなく事故が発生、パイロットが死亡し、通信も断絶した。ただ一人生き残った彼は、地球に還るためにあらゆる方法を試みる一方、パソコンに自らの回想録を書き始める。が、それが知らぬ間に地球に届き、全世界が注目することに。世界各国が救出活動を始める中、孤独な闘いを続ける彼の運命は? 感動の冒険サスペンス。
  裏表紙あらすじより

まず、これはSFではない。この宇宙旅行は商用軌道飛行で、これを飛ばしているASAはAmerica's Space Prizeを期限の1年前に獲得したという設定。もちろん現実的に考えるとそのスパンでの実現は難しい話だが、それでもSFではない。そういう時代なんだ、ということに衝撃を受けた。しかも、主人公は大金を払ったのではなく懸賞に応募して当選した人間だ。もちろんスーパーヒーローではない。

ストーリーとしては、技術について書きたかったわけじゃなく単に状況設定でしかないんだろうし、メインプロットはかなり御都合主義的だと思う。でも、この熱さはこの状況でなければ生まれ得ないし、アメリカンとはいえ読ませる文章は素晴らしい。それと、途中の軌道上でのいくつかの場面での宇宙空間に対する主人公の心理描写と最後の一文で、大概のことはOK。

訳文は、いくつかの固有名詞や用語に関する違和感と、地の文に現在形を多用するスタイルを除けば、誤訳があっても無意識で補間できる程度の小さいものだと思うのでそれほど気にならないはず。

まあ、いいから読め。すぐに。